子供たちの間では、失神ゲームが流行っている。
まずは深い深呼吸を数回。それから、誰かに胸を強く叩いてもらう。すると、一瞬墜落するような感覚があり、
めまいと共に気絶する。それが失神ゲームである。
子供たちはこれが大好きだった。みんなで胸を叩きあいながら、仲良く失神した。胸を叩くと、肺の中の空気が
全部外に出て行ってしまうような感じがして、それから足の力がすうっと抜ける。落ちていくような感じと共に
気が遠くなり、最後に強いめまいを感じながら気絶する。何ともいえない酩酊を感じさせるこのゲームは大人気
だった。気絶するときに現実が不確かになる瞬間が快感だった。
自分が自分でなくなるような。
夢の中に入っていくような。
何かから解放されてるような。
子供たちはみんな、少しでも長くこの気持ちの良いゲームを続けていたかった。けれども回数をこなすことは出
来なかった。というのも、一度失神すると目覚めるのに少し時間がかかる場合があったし、目覚めてからも暫く
は脳がぐるんぐるんと揺れているような不快感に襲われて経つことも困難だったので。中には嘔吐する子供もい
た。けれども、あの失神の瞬間は、目覚めた後の不快感を差し引いてもまだ魅力的なのである。子供たちは円に
なって相談した。どうしたら、あの気持ちの良い瞬間を少しでも長く感じていることが出来るだろうか。
すると一人の子供が提案した。もっと強い力で胸を叩いたらどうだろう。
みんなはその子供の意見に感心して、さっそく試してみることにした。強い力で叩いてみるには、手で叩くより
も何か道具で叩いた方がいいんじゃないかという意見が出され、みんなで丁度良い道具を探した。一人の子供が
バットを持ってきたので、それがいいそれでやろうということになった。
円を組んだ真ん中に、一人の子供がまっすぐに立つ。横にはバットを構えた子供が控えている。真ん中の子が、
大きく深呼吸をした。一回、二回、三回。その時を狙って、横の子が力いっぱいバットを振った。胸の丁度真ん
中に上手く命中した。打たれた子供は吹っ飛ぶように倒れた。
周りで息を呑んでみていた子供たちは、歓声をあげた。やった、成功だ、と口々に言って、倒れた子供の周りに
駆け寄って、みんなで目覚めるのを待った。
長い長い失神だった。子供はなかなか目覚めなかった。それでも子供たちはみんなで待った。そのうちに日が暮
れた。夜になった。倒れた子供はそれでも目覚めなかった。
あたりはもう真っ暗だった。子供たちは内心、いつもの失神ゲームとは様子が違うことに気付いていた。けれど
も誰一人としておかしいと言い出す子はいなかった。そのうちに、一人の子がしゃくりあげだした。すると連鎖
するようにして一人、また一人とかみ殺すような泣き声が続いて、それが契機になり子供たちは声を上げて泣き
出した。倒れた子供の周りに集った子供たちがみんなで泣いている。それでも失神した子は目覚めない。
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