ミスター・パトリック、こんなことがあったんです。
 私の生国はインドです。富裕なイギリス人たちが大勢、豪勢な居を構えています。そのイギリス人が住むお屋敷には、無駄に思えるほどの大人数のインド人が使用人として仕えていて、それぞれの役職を果たしているのですが、その役職の一つに庭の世話をする下働きがあって、一人の男がその役目についていたんです。ところが、彼があるとき小さなミスをして、それを主人に見つかり、手ひどく叱られました。ちょっとしたミスだったんです、誰だって見逃してしまうような、簡単な。ですが、その主人は、ミスはミスであって、一つの間違いを見逃すと他の使用人に対して示しがつかないといって、罰を与えました。主人はわざわざ本国から連れてきた犬をとても可愛がっていたのですが、その犬に彼の名前をつけて、わざわざ庭で遊ばせたんです。彼が草を刈ったり庭木の手入れをしたりしている横で、芝生で犬を遊ばせながら、彼の名前をいちいち連呼して、骨を投げながら「よし、パール、とってこい」だとか、「よくやった、賢いなぁパール」だとか、「パール、そこで小便をするんじゃない」だとか、そういう風にしてその下働きの彼に聞こえるように、名前を呼ぶんです。彼は屈辱に震える手で、木の形を整えていました。それで、そういう風に犬を庭で遊ばせる日が続いたある日、主人が「餌だ、パール、よく食べろよ」と言うのを聞いた彼は、我慢ができなかったんでしょう、手入れされた芝生の上に剪定鋏を叩きつけて、英語ではない生来の言葉で、主人を口汚くののしり、そのまま庭の片隅の使用人小屋に引きこもってしまったんです。次の日、その小屋の中で、草刈用の鎌で首を滅多切りにして死んでいるのが見つかりました。よく手入れされた鎌でしたよ。気候も風土も違うインドで、イギリス風の芝生を保つのは、並大抵でない労苦だったでしょう。
 どうして彼が死んだか、分かりますか、ミスタ。勿論、主人が憎かったからと言うのもあるでしょう、でもそれだけではありません。それは、祖国の父ガンジーを敬愛する彼には、罵倒の文句を乗せた自分の舌が呪わしかったからです。侮辱されたからと言って侮辱して良いという法はありません、そうでしょう。彼は自分で自分を恥じたのです。