全ての少女はお花畑にいる気かもしれないが、実際には全ての人間は血と泥のサン・バルテルミーにいるようなものだ、 というのがかつて詩人でありその後飛行機乗りへと転向した父の言葉だった。
 知っているかマイディア。あらゆる人間は、サン・バルテルミーだ。噛み砕いて言えば、あらゆる人間は一人の例外もな く虐殺する者であり且つ虐殺される者だ。攻撃する者でありされる者だ。殺すものであり殺されるものだ。僕等は過去も、 今も、そしてこれからも、いつだってサン・バルテルミーに立っているのだということを忘れるな。
 戦争状態に於けるのみならず、私達は、生きている間中ずっと、奪い奪われるのだ。世界はゲルニカであり、ヒロシマで あり、パールハーバーであり、アウシュビッツであり、その他全ての戦いの地である。
 知っているかマイディア。私もおまえも、奪い合い奪われ合う闘争の只中に、ただ一人立ち尽くす、余りにか細い存在だ 。誰一人言葉の通じない中で、恐怖の余り私達の膝は笑い、心臓は踊り、顔は青ざめている。油断をすればやられてしまう のだ、それを避ける為に私達に可能な唯一の方法は、その華奢な腕に抱えた銃を構え、震える指でトリガーを引き、豪雨の ような散弾で並み居る敵をなぎ払うことだ。それだけなんだ。生きていく為に私達にできることは、たった、それだけなん だ。
 辛いことだ。哀しいことだ。おまえの父と母は、そういう世界に、おまえを産んだ。