「夢見」


「ひどく厭な夢を見た。目覚めの悪い事この上ない。」
「何を見たか。」
「冷たい空気の中に人々と佇んでいた。重苦しい。」
「其れで。」
「床に黒い水が浸っている。ひたひたと足が冷たい。」
「其れで。」
「人々は微動だにしない。其処に水が在る事など気づかぬ風に只空虚な眼で前を見ている。」
「其れで。」
「何時の間にか人々の数が減っているのに気づいた。正面に居た人が。ふと前触れ無く砂と化して 黒い水に崩れる。」
「其れで。」
「人が砂となり水になっているようだ。私は恐ろしいが動けない。」
「其れで。」
「人が減ってゆく。次は自分かと思う。人が減ってゆく。人が減ってゆく。」
「………。」
「減ってゆく。減ってゆく。しかし自分はまだ死なない。」
「其れで。」
「其処で目覚める。」
「厭な夢だ。救いが無い。解決策が用意されていない。」
「いつだって其うなのだ。きっと自分はいつもいつも生き残るのだ。死のう死のうと思いながらい つも人の死ぬのを見ているだけなのだ。」
「其うでは無い。単なる夢だ。」
「浅ましい人間なのだ。狡賢い人間なのだ。つまらぬ間にのうのうと生き残る詮無い人間なのだ。」
「其うでは無い。」
「死なぬのだ。ああまた朝が来る。夜の暗がりも恐ろしいが朝の希望もまた等分に恐ろしい。」
「朝に縋れよ。」
「縋れるものか。図々しい。」