月曜日に生まれて土曜日に死んだソロモン・グランディーの埋葬に立ち会うリトル・ミス・マ
フェットの瞳に涙が滲む。結婚生活はたったの四日、そのうち三日は病に臥せった夫の看病。
棺の蓋が閉まって、今はもうその上に土を被せつつある。死んでしまったグランディー。喪服
を纏ったリトル・ミス・マフェット。小さな肢体に黒の喪服は驚くほど似合わない。色彩豊か
な絵画を無理矢理モノトーンにしてしまったような印象を受ける。それでも、いずれ近いうち
にリトル・ミスは喪服の似合う女になるだろう。敬称からリトルが除かれる日も遠くは無い。
庇護を施す大人が居なくなった日に、子供は大人になる。子供を守るべき大人であったソロモ
ン・グランディーの死んだ今や、子供だったリトル・ミスは大人にならざるを得ない。明日か
らは、誰も居ない家に帰宅し自分で寝具の用意を整え、冷えたシーツに身を横たえるだろう。
駆け寄ったとして誰も抱きとめてくれないから、一人で足音を忍ばせて歩く術を身に着けるだ
ろう。風に神秘の息吹を感じる事をやめ、単なる大気の流れとして捉えるようになるだろう。
熱い喜びや冴え渡る哀しみに胸を突かれて涙することもなくなるだろう。そして卵スープは二
度と飲まなくなるだろう。庇護の手を持つ大人を失った子供は、大人になる。そして、今度は
自分が子供に庇護を与えるようになる。リトル・ミス・マフェットは、単なるミス・マフェッ
トになる。子供の目を失ったミス・マフェットはもう極彩色の世界を見ることは無い。きらき
ら光る目を持たなくなったその時にこそ、喪服は彼女を最も良く引き立たせる装飾品となる。
棺の埋葬は終わった。墓碑銘は、「世界中の子供のために」。
This is the end
Of Solomon Grundy.