そうしてクリストファー・ロビンは大人への階段を踏み出した。彼は森の中の小道を歩く代わりにしっかりと
した仕立ての良い革靴で、石畳の道を着実に落ち着き払って歩む術を見つけた。夢見がちに熱に浮かされたよ
うな言葉の喋り方を忘れた。彼の口からは沢山の理論があふれ出るようになった。数学や科学や論理学、記号
で構成された数式。
彼は大人になった。かつて森の中に住んでいた黄色い親友のことは忘れがちになった。時折思い出すときは、
子供だった自分の幼稚な愚かさを思い苦い気分を噛みしめた。浅はかで考えなしだった自分と、泣き虫で頭も
心も弱かった親友との思い出は、けして気持ちの良いものではなく、寧ろ厭わしい過去だった。自分には現在
さえあればよかった、未来が確保されていれば良かった、過去は不要だったのだ。みっともない過去ならば尚
更、今自分が生きていくのに、不必要だった。
それでクリストファー・ロビンは、自分の名前を捨てることを決断した。黄色い親友が甘い蜂蜜の匂いのする
声で呼んだ名前だった。彼の住み家でアルファベットを教える時に、彼自身の名前の次に書き方を教えた名前
だった。最早不要だった。彼は名前を捨てた。
クリストファー・ロビンはどこにもいなくなった。