もし、私に、誰かひとり殺す権利が、ナイフと共に与えられたとしたら、
私はあなたを殺すわ。
ナイフをぴかぴかに磨いて、キラリと光るその刃であなたの命を断ってあげる。
方法はもう決めてるの。
私が刺すのは心臓でも腹でもない。
ほおよ。あなたのほおをめがけて一突き。
今までの怨念すべてをその一撃にこめて、ぶっすりと刺してあげる。



思い知りなさい。
あなたの身勝手な性格がどれだけ私を傷つけ、どれだけ私を苛立たせたことか。
その痛みを持って知るがいいわ。



どうして私がほおを刺すことを選んだかわかる?
私ね、自信がないのよ。
あなたのその豊満な脂肪を貫く自信が。
腹なんか刺そうもんなら恐ろしいわ。
せっかくのナイフがズブズブはまって抜けなくなってしまう。
だから、せめて、満足ゆくまで突き刺せて、痛みを感じる神経の集まりに近い位置にある ほおを選んだってわけ。
わかった?



くすっ。
私って何て親切なんでしょう。
ほんとうは他にも嫌いな人はいるのに、あえてあなたを選んであげたんだもの。
この私がわざわざ手を下してあげるんだから、ありがたいと思いなさいね。
………えっ、まさか、あなた、意味がわからないとかぬかすんじゃないでしょう ね。
あぁ、でも、あなた、自己中心でわがままで鈍感だから、有り得ない話じゃない か。

あのね、あなた、私以外の人からもたくさん嫌われてたのよ。

やっぱり知らなかったみたいね。
隠れあだ名は「焼きブタ」。まさに、あなたにぴったりの名前。
そりゃあ、彼氏も一緒に堂々と帰りたがらないはずよ。
あなたは「彼は照れ屋だから恥ずかしがるの」って言ってたけど、
ブタを連れて歩いてるのを見られたら、誰だって恥ずかしいに決まってるじゃな い。



でも、当然ながら人間はほお一突きじゃ死んでくれない。
それじゃあ、しかたがない。
その一突きにありったけの思いを込めて、これ以上ないというほどに深く刺し込 んだら、
次は体中穴だらけになるほどつついて、
最後は、あなたの自慢のふくよかな胸に、勝利のナイフを突き立ててあげる。
ふふふ。ブラッディ・カーニバルってやつね。
祭の開会宣言のごとく、ほおから血が勢いよく飛び出して、
腹から、腕から、脚から、この世のすべてを祝うかのようにして、どくどく溢れ 出してゆ くの。
フィナーレは胸から噴き出す大量の血しぶきでかざって、あなたの命に終わりを 告げまし ょう。



心配しないで。
私、あなたのこと大嫌いだけど、一人で逝かせるようなそんな淋しいことはさせ ないわ。
大丈夫。ちゃんと彼氏のもとへ送り届けてあげるから。



ピンポーン。

「宅急便でーす」
「あ、僕の好きな焼きブタだ。やったね!しかも、真っ赤な特製ソースまで付い てるしv」