なぁ、どこを向いても行き止まりだったらどうする?

 前も、左も、右も高くそびえ立つ壁でひたすら覆われていて。

 ただひとつ壁が欠けた箇所が、

 振り返ったところだとしたら。

 振り返った先には、今まで自分が地を踏みしめてつけてきたあしあとが

 果てしなく長く続いているとしたら。

 「自分の今まで生きてきた証」と言ってもいい、

 そんな道が後ろに延々と伸びているとしたら。

 

 君は、戻る?

 それとも、壁を突破して、また新たなあしあとを残してゆく?

 

 

 いや、まだ、選択肢があるか。

 

 

 そこでたたずんだまま、動かない、という選択肢が。

 

 

 ああ、なんて、絶望的な選択肢だろう。

 こんなことを思いつく自体、もう、僕は間違ってるんだろうな。

 大半の人は、壁を突破すると言うだろう。

 でも、僕には、そんなことできない。

 どうやったら突破できるかわからないし、できっこないとしか思えない。

 だからと言って、戻ろうとも思わない。

 今までつけてきたあしあとを逆向きに辿っていくなんて、考えただけで気が遠くなる。

 それじゃあ、何のために歩いてきたかわからないじゃないか。

 来る日も来る日も、雨の降る日も、風の日も、足どりの重い日も、

 前を向いて、足を下ろし、地を踏み、地を蹴り上げ、また足を下ろし……

 そうやってここまで来たのに、そんな苦労の証を横目で見ながら、 逆走するなんて耐えられない。

 途中まで戻れば、壁を突破する方法が見つかるかもしれないという人もいるだろう。

 でも、僕には無理だ。1歩だって戻る気がしない。

 

 なんて無気力な発言。

 

 

 なぁ。どうすればいいのかなぁ。

 もう、こっから動けないんだ。

 前にも、左にも、右にも、そして、後ろにさえも。

 

 なんで人間には差があるんだろうな。

 もし僕が、生まれつき根性のある人間だったら、壁を突破する手段を考えただろう。

 もし僕が、生まれつき冷静な人間だったら、いったん戻って手段を考えただろう。

 でも、性格ばっかりは変えられない。

 能力は努力次第でどうとでもなるけど、根性なんか生み出せない。

 そもそも生み出そうという気が起こらない。

 ほら、もう、すでに、無気力。

 

 なんで僕は生まれつき無気力なんだろう。

 こんなの、不公平じゃないか。

 

 

 なぁ。どうしたらいい?

 こんな無気力な僕。

 君が聞けば呆れて物も言えなくなるような選択肢を思いつく僕は。

 

 

 

 

 

 

 君が僕のために壁を壊しにきてくれるのを待つ、という選択肢を。