赤毛は淫乱の証だと知って私は無駄な抵抗をやめ、自分の持って生まれた邪淫の性を全面に押し出 して生きることにした。これからは私は自身の淫婦である事の責任をすべて赤毛に擦り付け生きて 行くことが出来る。そうしてその業の深さに耐えきれなくなったその時に、私は落飾して世界に身 の潔白を顕示しよう。毛髪を失った私は綺麗で誰より清純だからきっと良き尼となれる。


                ginger lady


豊かな赤髪は私の誇りにも似て、汚濁の場所でこそ魅力を発揮する。私はくわえこめるだけの汚濁 を身にまとってまるで聖女のふりをする。そのことを冗談めかして 情夫に言うと、『馬鹿を言うな、お前は精々“性女”だろうよ』と嘲弄された。時折世界中の男が こうなのだろうかと思うとうんざりする。彼らには機知を受け流す度量すらない。
私は混濁を好む。例えば吹き溜まりの酒場や紫煙の賭博場に私は染まりたい。煌びやかなナイトド レスよりは徒めいたサテンのドレスを、上品な賛辞よりは罵声めいた誘い文句を、私は綺麗なもの よりかは汚辱で周囲を満たしてしまいたい。だから洗練された貴公子よりも不粋で直情的なぶ男に いいようにされたいと思う。
いわば私はおぞましい世界を見る事で 自分を綺麗なものにしたいのだ。比べ蔑むことで自尊心をなんとか保っていたいのだ。私よりも汚 いものが世界にはあふれている事にいつだって安堵していたい。周囲の人間の浅ましい香水の香で 自身の腐臭に気付かないふりをしよう。

酒場の媚に飽きてしまったその時は、すっぱりとこの赤毛を断ち切って清らかになろう。吐瀉物に 汚れた床のうえに散らばる無数の赤い糸はさぞかし見栄えがするだろう。私は汚い部分を捨てて綺 麗になる。尼になる。