[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
母は淫売父はアル中、人を頼る事を知らずに十五まで生きて挙げ句失敗り今となっては水の中、漂い 死んでしまいました。 なんて、ありふれた話! 話の種にもならない茶番劇。有りがち過ぎて詰まらない昼メロの様な展開 。 でも目の前にぷかぷかゴミ袋みたいに浮いている死体は紛れもない真実、映画や芝居ではない生の( 生の?)死体、しかもそれが見知った人間のなれの果てだった日には。 しかし見知った等というのも冷たい話、今水死体となった元人間、思えば自分の親友とでも言うべき竹 馬の友、そんな人間が出来過ぎの小説みたいに 目の前で水袋となっているのだから、自分もわざとらしく驚愕して死体を抱え起こしみっともなく泣 き喚くべきなのかもしれない。「どうしてこんな事に!」とはいえその気は毛頭無いのだけれ ど。 生前―――――生前、生前、その響きの白々しさと言ったら!―――――貧しい暮らしに関わらず、 手入れをする余裕もない黒 髪はけれども深くたゆたい、正に緑の髪だとか烏の濡れ羽色だとかいうのに相応しい美しさだったの が今や不揃いにもつれ、水面に不様に浮かんでいる。それを哀しく重う気持ちはやはり自分には無い 。寧ろいい気味、と思っていない事もないのだから、人間は恐ろしいという話。人は人を笑顔で欺く のだ。騙されるな! それにしてもどうしたものだろう。何かにつけ人目を引こうと大げさに振る舞いがちな子ではあった が、こうまでも体を張って哀れみの注目を浴びたかったのか。馬鹿な話、けれどあの子なら有り得な くもないと思わせる、それも厭な事だ。本願叶って明日の朝刊でこれ以上無いくらい注視を集めてる 事になるだろうから彼女もさぞや満足だろう。あの得意げな笑顔は虫酸の走るほどの嫌悪感を自分に 与える。 まぁこれで二度とあんなうっとおしい面を見ないですむ、と思うと気が晴れない事もない。否、正直 に言えば清々する。幸いなる哉!自由なこの身! 水死体は水を吸って膨張し、皮が剥がれ惨憺たる様相を呈している。それに対して不快は感じ ない。寧ろ普段生きていた頃に比べたなら好意すら感じられる程。食い千切られた指も、変色した唇 も。 彼女の紫色の唇に指を寄せた。けれど思い止まりふと思う。 己の死体をいつまでも見つめている幽霊というのも真にぞっとしないじゃないか。未練たらたらでい つまでも現世に引きとどまる幽霊、浅ましく片腹痛い。 とはいえもう少しの間、この場に止まる事を赦してほしい。この水死体は自分の唯一の親友、切ろう にも切れない物質としての自分自身、酸いも甘いも知り抜いた離れもしないパートナー、私の精神に 寄り添うただ一つの肉体なのだから。 しかるべき時が来たなら、自分は潔く成仏しよう。だから、ああ世界よ!