律法学者やパリサイ人たちが、姦淫をしている時につかまえられた女をひっぱってきて、中に立たせた 上、イエスに言った、
「先生、この女は姦淫の場でつかまえられました。モーセの律法の中で、こういう女を石で打ち殺せと 命じましたが、あなたはどう思いますか」。
彼らがそう言ったのは、イエスをためして、訴える口実を得るためであった。しかし、イエスは身をか がめて、指で地面に何か書いておられた。
彼らが問い続けるので、イエスは身を起こして彼らに言われた、「あなたがたの中で罪のない者が、ま ずこの女に石を投げつけるがよい」。






 夢から覚めたとき、私は夢の内容をはっきりと覚えていた。時計を見ると、眠り始めてから三時間ほど しか経っていない。床に就いたのが昼の三時、今は六時前で、外では夕闇が迫っている。部屋の中は暗 がりに侵食されていた。
 変な夢を見た。私は機械の女で沢山の狼人間が町を闊歩していた。心臓をなくして、探しさまよってい た。狼に言われたこと、「石を投げろ」。
 私は毎日狼と戦っていて、いつも石を投げることを逡巡する、そのくせ狼を愛することも出来なかった 。今日明日からも狼と戦わねばならなかった、何度だって戦わねばならなかった。石を投げるか、さも なくば良心に従い敵を愛せ、可能ならそのどちらも。その命令に従えない私は、いつも笑いたいような 泣きたいような顔をして立ち尽くしている。
 狼にも機械にも、人間にもなれないなら、眠りたいというささやかな試みは、失敗に終わった。石は 手の中で所在無さげに黙りこくっている。

 明日から、私はどう戦おうか、不断に続くたゆまぬ戦闘の日々、私はどう戦おうか。私は悩もうと開き 直ろうと日は沈みまた昇ることは、残酷なようでいて救済でもあった。





「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」。
(中略)これを聞くと、彼らは年寄から始めて、ひとりびとり出て行き、ついにイエスだけになり、女 は中にいたまま残された。そこでイエスは身を起して女に言われた、
「女よ、みんなはどこにいるか。あなたを罰する者はなかったのか」。女は言った、「主よ、だれもご ざいません」。
イエスは言われた、
「わたしもあなたを罰しない。お帰りなさい。今後はもう罪を犯さないように」。


お帰りなさい、明日からまた戦うために。許しはしないが咎めはしない。