「実は」
僕はいっそ何でも無い事のように言った。
「今から君の事を殺してしまおうかと思ってるんだ」
神崎は手に持った分厚い本に夢中になっていて、目は文字を追ったまま、顔もあげずに返答した。
「それは奇遇ですね、玖堂君。私もです」
独特の平坦な声には全く慌てた様子がない。―――――こういう態度が気に入らない。
呆気に取られるなり怒りだすなり、何か反応を起こせばまだ可愛げのあるものを。
胸の奥で舌打ちをして、けれどもけして顔には出さない。
「それなら丁度都合がいい。ねぇ神崎、僕は思ったんだけどね」
意味ありげに間をもたせてみて、こいつの出方を見る。
神崎は、やはり本に没頭したまま、僕には欠片も注意を払わなかった。その事にまた殺意が芽生える。
「お互い殺したい程の憎悪を持ち合っていて、なのにこんな風に一緒にいるっていうのはおかしい。
間違っている。
普通、僕は君を殺したい、君も僕を殺したいとくれば―――――やることは一つだろう?」
ようやくこいつは文字から僕へと視線を移した。
奴の目に僕だけが写っているであろう事に満足して、僕は出来る限り魅力的に見えるよう艶やかに笑ん
だ。
―――――だからさ。
「殺し合い、しないか?」
17 : 駆け引き
机を挟み、向かい合って座る。
僕は、用意していた一丁の拳銃を取り出して机の上に置いた。
鈍い光を放つ、黒色の銃口。
「30口径マグナム………ですか」
「そう。よく分かったね」
言いながら、さらにポケットから一発の銃弾を出し、目の高さで神崎に銃弾の存在を強調させた。
「これは本物の銃弾だ。……僕が今からやりたいのは、まぁ簡単に言えばロシアンルーレットだよ」
ロシアンルーレット――――― 一発の銃弾が入った拳銃を順に己のこめかみに当て、引き金を引くゲ
ーム。運の悪い者が死ぬ…。
神崎の目が、少しだけ細められた。
「この実弾を拳銃のリボルバーに………装填」
言いながら、僕はリボルバーにたった一発の実弾をはめ込んだ。そして勢い良くリボルバーを回転させ
る。これで何発目に銃弾が飛び出すのか、もう誰にも分からない。
「ルールは分かるね?順番に自分のこめかみに照準をあわせて引き金を引いていく。この銃の総弾数は
六発だから、まぁ多くても三回ずつで勝負は決まる」
「……貴方、正気ですか?」
何を血迷った事をとでも言いたげな神崎の視線が妙に僕の自尊心を刺激して、僕はひとりでに湧き上が
笑みを隠そうともせずに、口角をつりあげた。
「正気だし本気だよ。合理的で素晴らしい方法じゃないか!それとも何だ、神崎は怖いのか?」
こう言えば人一倍プライドの高い神崎の事、乗って来るに決まっている。
案の定奴は不愉快そうに眉を寄せ、いいでしょう、と擦れた声で呟いた。
「その勝負、受けて立ちます」