おかしなおかしな物語。
『12 : 失ったものは』
気が付けば、あたしは其処に立っていた。
此処に来た目的とかどうやって此処に来たとか、そーいう事を全部すっ飛ばして、ただあたしは
其処にいた。
それは多分尋常でなく不思議な事態なんだろうなぁって思った。
でも、あたしは別に不思議でも何でも無いって思った。
だって、あたしは理解してた。
これは、夢の中の世界なんだって事。
目が覚めたら消えてなくなる、しかも覚えてなかったりする、そういう類の夢だって事を。
だからあたしは冷静だった。あらん限り冷静にこんな事を考えた。
夢だって理解してる夢なんて、滅多に見れるもんじゃない。
楽しまなきゃ損でしょ。
てことで、まずは状況観察。
さて、此処は見れば見るほど変な世界だった。
馬鹿でかい落とし穴。
目の前に落とし穴があって、あたしはその前に突っ立ってた、んだけど。
馬鹿でかい。
半径1km、深さはそのままマントル層突き抜けるんじゃないかってくらいの落とし穴なんだから
そこんじょそこらの落とし穴じゃないと思う。
少なくともあたしが落とし穴を作っても、こんなに馬鹿でかくはならない、はず。
でか。
目の前にそんなもんがあったら、やっぱ覗いてみたくなるのが人情ってもんで。
あたしはその前に立って、穴を覗き込んだ。
穴は深くて、底が見えない。
あたしは更に身を乗り出して、穴の底を観察しようとする。
まっくらくらの闇の奥から風が吹き込んできてて、それが気持ちいい。
そしたら、急に。
下を向く自分の首が妙に気になった。
なんでって言われてもそりゃ何でだろう、としか答えられないんだけど、何か妙に気になった。
だから頭を起こそうとして、変な事に気付いた。
頭があがらない。
文字通り、頭があがんないんだ。別に頭が重くなったわけでもないのに、むしろ軽くなった気もすん
のに、頭があがらない。
てか、頭のあげ方忘れちゃったっぽい感じ。いや、ちょっと違うかな。
まぁ、どっちにしても。
―――――どーしよっかなぁ。
自然に髪の毛をいじろうとした指先が、空を切った。
……うん?
空を切った??
変だ。其処にはあたしの髪の毛があって、頭があるはずなのに。
そこであたしは自分の顔の辺りを探った。
やっぱり空を切った。
もう一回、今度はゆっくり慎重に、あたしは自分の頭を探した。
やっぱり、見つからない。
で、気付いた。
もしかして、あたし。
頭、無いんか。
つまり。
文字通り、本当に文字通り、あたしの頭が無くなっていたって事で。
でもその時のあたしにはそれがとても自然な事に思えて、だから慌てもしなかったし騒ぎもしなかっ
た。
そっかぁ、頭無くなっちゃったんだー。
もう一回穴を覗き込んだら、穴底にあたしの頭が落ちていくのが見えた。
いや、時間の流れ的にそんなの見えるわけが無いんだけど、そこはそこ、夢の都合がいいところで、
まぁとにかく落ちていく頭が見えた。
さよなら、あたしの頭。
長い間お疲れ様でした。
ゆっくり休んでください。
なんだか爽やかな気分になったところで、意識が反転して。
あたしは、覚醒した。
起きた。
いつもの布団の上、あたしは目を覚ました。
目の前にはあたしの頭が転がっていた。
生首。
わぁ。
死んだ。
『失ったものは?』
頭。